ニホンミツバチについて
生態
ニホンミツバチは、古来より日本に生息する在来種のミツバチです。ニホンミツバチ、外来種のセイヨウミツバチともに社会性昆虫です。生態の基本はほぼ共通で大変興味深いですが、ニホンミツバチには、セイヨウミツバチにない面白い性質・行動があります。両種の主な違いをあげてみます。
※基本的な生態については、当会で販売している書籍や下記の参考書籍をご覧ください。
- (1)見た目の違いとしては、ニホンミツバチの働き蜂の方がセイヨウミツバチに比べ、少し小さく黒っぽい色をしています。巣穴の直径も0.5mmほど違います。また、後翅の支脈にも違いがあり、両種の区別ができます。ニホンミツバチの雄蜂の繭には小孔があります。
- (2)セイヨウミツバチ1群の蜂数は2~4万匹で、飛ぶ範囲はだいたい半径3~4㎞、ニホンミツバチは5000~2万匹で飛ぶ範囲は1~2㎞です。
- (3)ニホンミツバチは、中国原産のラン「キンリョウヘン」の花に誘引され、集団でその花に群がりますが、セイヨウミツバチは全く誘引されません。この性質を利用して、繁殖期のニホンミツバチの分封群を誘引し、待ち箱に導入することもできます。 キンリョウヘンはニホンミツバチの分封時期に咲くことで受粉してもらう戦略です。
- (4)ニホンミツバチの交尾は、交尾飛行空間(樹上)と時間帯(概ね午後14時 半~16時半)により、セイヨウミツバチ(林に囲まれた盆地状の空間 概ね13時~15時)と隔離されています。
1990年に発見された雄バチの集合場所で(樋口広芳博士 撮影2017年6月29日 盛岡市川留稲荷神社)。アルコール漬けにした女王バチを糸にくくり付けている。
- (5)ニホンミツバチは、オオスズメバチに対して防御方法を持っています。
初めは偵察役のオオスズメバチが1匹で、ニホンミツバチの巣箱に飛来します。その直後からニホンミツバチには、オオスズメバチのにおいをかじり取るような行動と、巣門周辺への植物の塗り付け行動が見られます。その後、あるタイミングで一気にオオスズメバチを団子状に取り囲み、胸部の筋肉を振るわせることで温度を48℃近くまで上げ、さらに二酸化炭素の濃度も上げて、偵察役のオオスズメバチを殺すのです。一方、セイヨウミツバチは偵察役を殺すことがほとんどの場合できず、オオスズメバチが集団で飛来し、2~3時間で全滅してしまいます。
(菅原道夫博士 撮影2008年10月4日)
- (6)ニホンミツバチは、振動を与えた時や、天敵のオオスズメバチが近くに飛んで来た時に、集団で羽を波状に振るわせ、シュワーシュワーという威嚇音を出す「シマリング」という行動をとります。小型のスズメバチに対しては、腹部を激しくブルンッと震わす振身行動を行い、なかなか寄せ付けません。同じ場所にセイヨウミツバチの巣箱があると、スズメバチはそちらの方を襲います。
- (7)セイヨウミツバチは植物の芽や樹脂などを集めて唾液と混ぜ、プロポリスを生産して巣箱の中で利用しますが、ニホンミツバチはプロポリスを作りません。
- (8)何らかの理由で女王バチがいなくなった時、変成王台ができにくく、働蜂産卵が早く始まるのはニホンミツバチの方です。
- (9) ミツバチヘギイタダニは、セイヨウミツバチに大きな被害を与えますが、ニホンミツバチにはあまり被害がありません。一方、2010年から急速に全国に広がったアカリンダニによって、現在、ニホンミツバチの群は各地で減少しているようです。さらに、セイヨウミツバチでは見られない蜂児出し現象(サックブルード病)が2000年初頭頃から見られ、九州や西日本各地でニホンミツバチの群が消滅しています。(リンクの「守ろう!ニホンミツバチプロジェクト」をご覧ください。)
- (10)ニホンミツバチは、環境変化や刺激に対してとても敏感で、逃去する事も多いです。
- (11)ニホンミツバチは、広葉樹の花々の蜜や花粉を群の維持と成長のために利用してきたという研究があります。古来より日本各地で花々を受粉させることで、森林や様々な植生の形成・維持に貢献してきたことでしょう。作物の受粉にもセイヨウミツバチや多くの昆虫たちとともに大いに寄与しています。
参考にした書籍
「ニホンミツバチ 北限のApis cerana」佐々木正己著 海游舎 1999年
「蜂からみた花の世界」佐々木正己著 海游舎 2010年
「ニホンミツバチの飼育法と生態」吉田忠晴著 玉川大学出版部 2000年
「ミツバチ学」菅原道夫著 東海大学出版会 2005年
「比較ミツバチ学」菅原道夫著 東海大学出版部 2015年
「スズメバチの科学」小野正人著 海游舎1997年
ニホンミツバチの生態等に関する会員の方の論文もどうぞご覧ください。
- キンリョウヘンがニホンミツバチを誘引する物質の解明 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika/30/1/30_11/_pdf/-char/ja
- 補食者スズメバチに対するニホンミツバチの防衛行動 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika/30/2/30_68/_pdf/-char/ja
- さとやま自然再生事業地におけるニホンミツバチの生態系サービス評価 : 花資源利用およびコロニーの発達 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/19/1/19_KJ00009406686/_pdf/-char/ja
- 奄美大島のニホンミツバチの保全に向けた生態特性の把握:体サイズ、 営巣場所、天敵、繁殖期のコロニーの活動と分封 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/20/2/20_KJ00010232603/_pdf
- A scientific note on hive entrance smearing in Japanese Apis cerana induced by pre-mass attack scouting by the Asian giant hornet Vespa mandarinia(オオスズメバチによる集団攻撃前の偵察行動により誘発されるニホンミツバチの巣の入り口における塗り付け行動) https://www.archives-ouvertes.fr/hal-01532416/document
- ニホンミツバチにおけるアカリンダニの分布拡大 ニホンミツバチにおけるアカリンダニの分布拡大(pdf)
- First report on the emergency dance of Apis cerana japonica, which induces odorous plant material collection in response to Vespa mandarinia japonica scouting (ニホンミツバチがオオスズメバチに対して巣の防衛のために使う植物の採集の際に行うダンスの発見 要旨のみ) https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ens.12285
- Smearing behavior of Apis cerana japonica in response only to attacks by Vespa mandarinia : First report on the use of diverse organisms as smeared materials by worker bees in emergency situations(天敵オオスズメバチの攻撃に対してのみ行うニホンミツバチの塗り付け行動:緊急時に塗り付け物質として利用する多様な生物の新発見 プレプリント 日本語) https://jxiv.jst.go.jp/index.php/jxiv/preprint/view/630
ニホンミツバチを飼育するためには、生態や行動をよく理解したうえで、好みや考え方、場所などによって巣箱を選びます。木の洞や、重箱式、各種巣枠式などがあります。
どんな工夫をしたら分封群が待ち箱に入り、元気で長くいてくれるか、そして蜂蜜をいただくことができるか、飼育者の方々は愛情と探求心と責任感を持って、日々、ニホンミツバチと共に暮らしています。
- ニホンミツバチ、セイヨウミツバチどちらであっても飼育する場合は、お住いの都道府県の畜産課等に飼育届を出す必要があります。
養蜂振興法 https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/sonota/pdf/kaisei.pdf - ミツバチの習性や巣箱周辺の環境により、近隣でトラブルになることがあり(刺害、糞害等)、丁寧な説明や対処法が重要です。当会で販売の「ミツバチと暮らす」もご参考になさってください。
蜂蜜
現在市販されている蜂蜜のほとんどは、セイヨウミツバチ(1877年に日本に導入された外来種)で採集されたものです。収蜜力が高いので、花が咲く順番で主な花別に蜂蜜を採っていくことができます。
ニホンミツバチは群が小規模なので、その蜂蜜は、年1回の独特な採蜜法による様々な花の蜜がブレンドされた「百花蜜」となります。巣がもろいため、昔は蜂蜜を採取する際、巣ごと掻き出して中の蜂蜜・ローヤルゼリー・花粉・蜂の子・蜜ろう全てを生の状態、もしくは火入れをして、粗目のアミを通すのが一般的な方法でした。栄養が豊富、滋養味たっぷりで、古来より民間薬・滋養食として食されてきました。もう一つの採り方は、蜂の子やローヤルゼリー等が混ざらない、蜂蜜だけのさらっとした「タレ蜜」です。
2015年5月、「ニホンミツバチとその蜂蜜」が、スローフード日本協会の「味の箱船(アルカ)」に登録されました。
ニホンミツバチ、セイヨウミツバチ、どちらの蜂蜜も巣の周囲の植物環境が反映されますが、ニホンミツバチの蜂蜜の方が、少し酸味と熟成した香りが感じられるようです。また、1群から採れる量は、平均でセイヨウミツバチの方が5~10倍ほど多いです。それぞれの良さや特徴を楽しみましょう。
- 昔の採蜜法などは、リンクの「ニホンミツバチ・養蜂文化ライブラリー」をご覧ください。
- 味の箱船 https://slowfood-nippon.jp/category/ark-of-taste/page/4/
- 蜂蜜等養蜂産品を生産・販売される方へ。
2021年6月より、原則としてすべての養蜂産品販売者がHACCP(ハサップ 危害要因分析重要管理点)に沿った衛生管理に取り組むことが義務付けられました。
日本養蜂協会 https://www.beekeeping.or.jp/health
詳細はお近くの保健所へお問い合わせください。
フォトギャラリー
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みつばち編
シュワー!とシマリング
枠式で飼育
美味しいなあ!
日本バチの蜂蜜
一関市 納屋のニホンミツバチ
産卵前に巣穴をのぞく女王蜂
藤原会長とニホンミツバチ
こだわりの直交巣
ハート型の分封群
ニホンミツバチとたわむれる
花粉は幼虫の餌、ローヤリゼリーの元
ミツロウろうそく。ミツバチの巣はミツロウ製
蜜源植物編(御園孝氏撮影)
イヌエンジュ(マメ科)
蜜源樹花の少ない7~8月に咲くので森の日本みつばちは大喜びです。花は密生して咲きます。
キヅタ(ブドウ科)
樹木に絡みつくため嫌われ者ですが、この花のおかげで越冬用の餌を確保できます。多くの昆虫が訪花します。
イロハモミジ(ムクロジ科)
花が咲かないと思っている人が多いようですが、早春に咲き、蜜も花粉も出してミツバチが集まります。
トチノキ(ムクロジ科)
落葉広葉樹として重要で、都心でも街路樹として貴重な蜜源・花粉源となります。
トウネズミモチ(モクセイ科)
在来種のネズミモチよりすべての部位が大きく、6月中旬~7月に咲ききます。
ツバキ(ツバキ科)
晩秋から春までと花期が長く、メジロなどの鳥が多く来ます。早春になるとミツバチも蜜を求めて訪花します。
ウド(ウコギ科)
花は8~9月にかけて咲くのでタラノキ同様、空き地に植えたい植物です。
ハギ(マメ科)
野生種は20種類ほどあり、蜜量が多く重要な蜜源植物で、荒れ地等に最初に生える先駆植物(パイオニア植物)です。
ムクロジ(ムクロジ科)
6月頃咲き、たくさん訪花します。タネは数珠や羽根付きの羽根に利用されます。
タラヨウ(モチノキ科)
東京では5月中頃、4㎜ほどの淡い黄緑色の花が、3㎝程の塊になって木全体にびっしり咲きます。雌雄異株。
ウメ(バラ科)
2月中旬くらいから咲き始めます。蜜・花粉ともに多く、メジロやヒヨドリが頻繁に訪花、ミツバチにとっても早春の大切な蜜源、花粉源です。
ウワミズザクラ(バラ科)
4月中旬に咲く蜜源です。他のサクラと形が違いブラシ状に咲き、ブドウの房状に実をつけます。
ケンポナシ(クロウメモドキ科)
街中では見かけませんが、山間地にはかなり大きなケンポナシが自生しています。年により豊作、不作があります。
コシアブラ(ウコギ科)
9月頃に咲き始め、いろいろな昆虫が訪花します。新芽は山菜として大変美味しいです。
ビワ(バラ科)
11月頃から1月にかけて花を咲かせ続け、受粉昆虫がほとんどいない寒い時期でも、穏やかな日に飛び回るニホンミツバチが訪花します。
ヤナギラン(アカバナ科)
霧ヶ峰などの標高1400~1800mほどの高原に群落をつくって咲く花で、この高さでも温暖化の影響かニホンミツバチが訪花しています。
ムラサキナツフジ(マメ科)
7~9月にかけて紫色の花を大量に咲かせます。ミツバチは多数訪花し、花粉団子をたくさんつくり蜜を吸います。
ヤブカラシ(ブドウ科)
6月~8月にかけて咲き、橙色の花托にはたくさんの蜜が出ますが、翌日にはピンク色に変化し蜜が出なくなります。昆虫達はそのことを知っています。
カナメモチ(バラ科)
生垣として植えられますが、花芽が切られることが多いです。花期は4~6月。放置された満開の花にはミツバチが大量に訪花していました。
カラスザンショウ(ミカン科)
花の少ない7月頃に緑白の小さな花が房状に咲きだします。雌雄異株で写真はオスの木。雌雄ともに花は沢山咲きます。
クリ(ブナ科)
6月に花が咲くクリは、かなり重要な蜜源・花粉源で、咲き始めるとミツバチは一斉に訪花します。個性の強い蜂蜜になります。
カクレミノ(ウコギ科)
7~8月にかけて黄緑色の小さな花が3~4㎝の球状になり枝先に咲きます。ニホンミツバチの集団が乱舞しているのを見たことがあります。
イブキジャコウソウ(シソ科)
ハーブのタイムの仲間で、チモールが成分として含まれています。シート状に広がり、多くの昆虫の蜜源になります。6~7月が花期。
フクジュソウ(キンポウゲ科)
蜜は出しませんが、早春の花の少ない時期の貴重な花粉源です。花の内部は周囲よりも温かくなっており、ミツバチもほっと一息。
ミツバチにとって花は命、花がなくては生きていけません。ミツバチを飼う人は、自ずと周囲の植物や自然環境に目を向けることに。すると、今まで気づかなかった植物の多様性に気づいたり、五感がとぎすまされたり、天候や季節の変化にも敏感になります。ミツバチの世界はセンス・オブ・ワンダーに満ちていて、蜂蜜やミツロウ、作物や自然界での結実の恵みとともに、驚きや喜びも私たちに与えてくれます。